彼女の夢の中のテリュースは、いつも幸せそうに微笑んでいて、その微笑みを受け止めると、幸福ではち切れそうな気持ちになる。
しかし、夢からさめ、恋しいテリュースの姿を探すとそこには、どこか遠くを見ているように虚ろな眼をした横顔があるだけ。うつし身はここにあっても、心はあの人のいる彼方に飛んでゆく恋人。
そんなテリュースだが、スザナが話しかけると、どんな時でも礼儀正しく丁寧に言葉を返してくれる。
しかし、それは「恋」ではなく、「義務感」なのだと冷静なもうひとりの自分がささやく。
あなたは、愛されてはいないのよ、と。
『それでもテリィがそばにいてくれるだけでいい、と願ったんじゃなかったの?スザナ。』
泣きたくなる気持ちを抑え、何度も自分に言い聞かせる。
しかし、時にたまらなくなって、
「あの人のところへ行ってもいいのよ、テリィ。まだ間に合うわ、きっと。」
何度か、試すようにテリュースに言ってみたことがある。
けれど、そんな時、必ず、
「君を選んだんだ、俺は。心配しなくていい。」
ハッとしたようにテリュースはとりつくろった硬い笑顔を作るのだった。
よくできた仮面のような。
今、その彼が目の前にいて、早朝の光の中、窓辺で優しく笑っている。
柔らかな栗色の髪、ブルーグレイの瞳。胸を締め付けられるほど、スザナが大好きなテリュースの姿。
また夢なんだわ_。
スザナが、ぼんやりとその顔を見つめていると、目の前のテリュースが口を開いた。
「ただいま、姫。もう朝だよ。」
今までスザナが耳にしたことのない、からかうような口調。
「良く眠っていたね。ノックの音にもカーテンを開ける音にも気づかなかった。」
これは、現実__?
「テリィ、あなたなの?」
「遅くなって悪かった。」
まだぼんやりとしているスザナにそう言うと、テリュースはベッドにかがみこみ、いくつかのピロークッションを重ねて、スザナが上半身を起こせるように手伝った。そして、自分は床にひざまづき、スザナの目線にあわせた。
「辛い思いをさせてすまなかった。もう俺はどんなことがあっても逃げたりしない。」
テリュースはそこで言葉を切って、微笑みをおさめ、
「すまない、スザナ。君から舞台を奪っておきながら、こんなことをいう俺を許して欲しい。だけど、俺は気づいたんだ、自分の心に。俺は一生役者でいたい、どんな時でも舞台に上がっていたいんだ。」
まっすぐにスザナの瞳を見据えた。
「テリィ。。。。。」
「たぶん俺は、思い上がっていたんだと思う。ブロードウェイ期待の新星なんぞと持ち上げられ、自分の実力と勘違いして、俺がどんなにツイていたか、恵まれていたか、わかっていなかった。みんなが、しのぎを削り、血を吐く思いをして、舞台にたっているというのに、俺は気を散らし、舞台に集中していなかった。」
はじめて聞くテリュースの告白に、スザナの大きな瞳に涙があふれてくる。
等身大のテリュースという青年への愛おしさで、胸が苦しくなる。
「すべてを失ってはじめて、俺がどれほど舞台を愛しているか、役者でいることを望んでいるか、痛いほどわかったんだ。だから、どんなに困難でも、もう一度、あの場所へ立つために俺のすべてをかけようと思っている。」
そこには、あの日。
ストラスフォード劇団の団員オーディションを受けにきたテリュースと同じ瞳があった。
「ありがとう、テリィ。その言葉を聞けて、私、とても嬉しいわ。」
スザナの涙が、ゆっくりと頬を伝う。
「あなたの苦しむ姿を見て、私のせいだと辛かった。でも、それを認めるともっと辛すぎて、あなたの心を見ないようにしていたの。周りにいる人の目ばかり気にして、愛されているふりをするのに一生懸命だったわ。ごめんなさい、テリィ。」
「バカな。君は何も悪くない。俺が大切なものに気づいていなかったのが悪いんだ。おまけに、俺はその大切なものの守り方を知らなかった_。」
いつもはそっけないテリュースが、懸命に心のうちを話してくれているのだとスザナは感じていた。
「よかった。本当によかったわ、テリィ。わたし、あなたを応援するわ。」
テリィにとって何よりも大切な演劇を応援したい、スザナは心からそう思った。
それを、聞いて、テリュースはほんの一瞬、長い睫毛をふせて、短く深い呼吸をしたあと、再びスザナを見つめると何かを吹っ切るようにきっぱりと言葉を発した。
「俺の大切なものの中には、君もいると感じている。これからもずっと、俺を見ていて欲しい。」
テリュースはスザナの瞳をまっすぐに見つめた。
「おお、テリィ!!愛するあなた!」
テリュースの思いがけない言葉に、スザナはその胸に飛び込んだ。
いつも、自分にはこの胸に抱かれる資格があるのだろうかと躊躇し、ずっと遠慮していた。
今日は、なんの迷いもなくその胸に飛び込んでもいいと思えたのだ。
そんなスザナをテリュースはしっかりと抱きしめ、長い指で、彼女の髪を優しく撫でた。
これでいいんだよな?キャンディ。
お前はそう願うんだよな?
運命は、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶのだ。
Your soul is carried to the most suitable place with destiny.
テリュースは、運命が動きはじめたのを感じていた__。
次のお話は
↓
にほんブログ村
SECRET: 0
PASS:
ジゼルさま
初めまして。
美紅と申します。
この度は、拙作にいいねをくださり、ありがとうございます✨
アイコンの弾ける笑顔のキャンディにつられ、こちらへ参りました。
『永遠のジュリエット』素敵なタイトルですね
初めての二次小説、私も第一作目投稿時、とてもどきどきしたのを憶えています。
これからも更新を楽しみにしています
SECRET: 0
PASS:
>美紅さん
コメントをいただき、ありがとうございます。
キャンディキャンディと言う物語の中で「ロミオとジュリエット」は大切なワードだと思っていてタイトルに使いました。
あの当時のテリィの雰囲気を残したまま、意識を変え大人になっていく姿を描きたいけど、私には難しくて。
アドバイスをいただけたら、嬉しいです。
こんなの、テリィじゃない!とお叱りを受けるかも、と不安だらけなので、続きを楽しみにしているとのお言葉、感謝いたします。
涙がでそう。
SECRET: 0
PASS:
>美紅さま
「さま」と呼んでいただきましたのに、「さん」と
失礼しました。
SECRET: 0
PASS:
>ジゼルさん
そんなの、全然、全く気にしないでくださいっ(≧▽≦)
↑ほら、返信すると自動で「さん」になるのです。
SECRET: 0
PASS:
そういえばスザナっていましたね。これ読んで本編のストーリーを思い出しました。キャンディからテリィを奪った子だったかな。
SECRET: 0
PASS:
>キャスバル兄さんさま
スザナを思い出していただけて、嬉しいです。
当時は、相思相愛のテリィとキャンディを引き裂く嫌な女子、としか思えませんでした。
今は、もしスザナみたいに誰かを好きになってしまったら、辛いだろうなぁと思ってしまいます。
SECRET: 0
PASS:
はじめまして、キャンディキャンディのテリィファンのよっちゃんです。新たに二次小説に出会い嬉しいです。
スザナとテリィ抱きしめてるなんて。。。
そこはどうしても通らないといけないですよね
これからも楽しみにしています
SECRET: 0
PASS:
>よっちゃんさま
コメントをありがとうございます。
先月、コロナでしばらく帰れなかった実家に久々に帰り、キャンディキャンディを読み、暮れからキャンディ熱が再燃しております。
お正月休みからずっと、みなさまの素敵なキャンディ関連ブログを読ませていただいているところです。
テリィファンのよっちゃんさまに読んでいただけるとちょっと緊張しますが、とても嬉しいです。
ロックスタウンで、色々なことを感じ、少し大人になったテリィがスザナに対する気持ちを立て直していくところ、でも魂のよりどころはやっぱりキャンディにあって。(そうであって欲しい)
それを表現したいです。色々アドバイスをいただけたら嬉しく思います。
SECRET: 0
PASS:
>よっちゃんさま
コメントをありがとうございます。
先月、コロナでしばらく帰れなかった実家に久々に帰り、キャンディキャンディを読み、暮れからキャンディ熱が再燃しております。
お正月休みからずっと、みなさまの素敵なキャンディ関連ブログを読ませていただいているところです。
テリィファンのよっちゃんさまに読んでいただけるとちょっと緊張しますが、とても嬉しいです。
ロックスタウンで、色々なことを感じ、少し大人になったテリィがスザナに対する気持ちを立て直していくところ、でも魂のよりどころはやっぱりキャンディにあって。(そうであって欲しい)
それを表現したいです。色々アドバイスをいただけたら嬉しく思います。
SECRET: 0
PASS:
こんにちは☆
この前は、ブログを見てくれてありがとうございます^ – ^
同じ作品が好きな人に出会えて嬉しかったです
キャンディキャンディは、私も好きな話の一つです
ただ、好きだけど、手に入らなくて持ってはいない作品の一つでもあります
2時小説というものは、あまり読んだことがないのですが、結構面白かったです
よく、登場人物の気持ちを考えてあるなあと思いました
ちなみに私はやっぱりテリィと結ばれてほしいです(^^;
これから、少しずつ読んでみたいです(*^_^*)
SECRET: 0
PASS:
レモリアさま
コメントをありがとうございます登場人物の気持ちを考えてるとおっしゃっていただき、すごく嬉しいです
キャンディキャンディは大好きな漫画ですが、同時にがっかりした漫画でもあります。
キャンディとテリィとのハッピーエンドを信じて疑わなかったので、結ばれないまま終わってしまい、すごくショックでした。
ロックスタウンで、テリィが再起をかけてブロードウェイに戻った後の物語を読みたい‼️とあの頃強く思った記憶があります。テリィはあの後、どんな人生をおくったのか知りたくて。むしろ、テリィが主役のキャンディキャンディを読みたい(笑)
そこのところは、名木田先生のファイナルストーリーにもないので、自分なりに妄想しているところです✨
これからも読んでいただけると嬉しいです
レモリアさまの世界観、素敵だな✨と思っています✨