レイクウッドへ___。
まっさきにニールのことを取り消してもらわなきゃ。
そして、そして。
今までのお礼をたくさん。感謝をこめて。
キャンディは、大おじさまに何から話そうか、何を尋ねようか、道中ずっと考えていた。
話したいことも尋ねたいことも山盛りで、頭の中はぐちゃぐちゃ、まだ何も決まっていない。
でも・・・。ふと・・・。
本当に大おじさまに会えるのだろうか?
そんな不安がわき、キャンディはレイクウッドが近付くにつれ、もうすぐ夢にまで見た大おじさまに会えるという喜びよりも、激しい緊張感に押しつぶされそうになってきた。
もう今のキャンディには、期待しすぎて、願いが叶わなかった時の辛い気持ちが想像できてしまう。
期待が大きければ大きいほど、受けるショックも大きい。
頭の中でいろんなことをぐるぐる考えると恐怖で足がすくみそうになる。
もし、願いが叶わなかったら__?
今まで何回そんなことがあっただろう。
『いつか、私にも自分だけのパパとママができるのよ!お金持ちで優しいパパとママが迎えにきてくれる。』
ずっとずっと夢見ていたのに、迎えにきたのは、ラガン家令嬢の話し相手という屋敷の従業員としてのもの、だった。
『これからは、いつでもアンソニーに会えるんだわ!アンソニーの微笑みにすごく近いところで、私は彼と一緒にバラを育てながらゆっくり大人になるの。』
そう思い、なんの疑問ももっていなかった。だけど、アンソニーは行ってしまった。。。突然、さよならも言わず、ずっとずっと遠く、手の届かないところへ。
『テリィがポニーの家に来ている!』
彼に会えると息を切らしてかけのぼったポニーの丘。一陣の風のように、そこにいた気配だけを残して、行ってしまったテリィ。
そして、そのテリィとはもう会うこともない。。。
期待すればするだけ、その願いが叶わなかった時に受ける痛手は大きいのだ。
そんな経験をすると、願いが叶わない時のことを先回りして恐れてしまう。
ダメダメ!暗いこと、考えてちゃ!わたしらしくないわ!
懐かしいレイクウッドだもの。
馬車を降りるとキャンディは、気持ちを切り替えようと昔のルートを使い、得意の「ターザン渡り」で、木々を伝って行くことにした。ターザンのように木々の枝から枝に飛び移り、地面に降りることなく、目的地に着く。
途中、飛び移った枝が細すぎて、キャンディの身体を支えられず、ポッキリ折れたり、次に飛び移ろうとした枝が遠すぎて、地面に降りてしまったら「アウト!」
その日の運勢はイマイチ、ってこと。
逆に目的地まで枝を伝って行けたなら、その日は、「ラッキーデー」
きっといいことがあるハズ!
子供の頃からキャンディの得意な「ターザン渡り。」
調子がいいと長時間、長距離を飛んで行ける。
バキッ!
「いたたっ!」
だがなんと、今日はあいにく枝がぽっきり折れて、キャンディはお尻から落下してしまった。
さい先悪いなぁ。
そんな考えが、一瞬心をよぎったが、
「いけない、いけない!がらにもなく弱気になっちゃって。いざ、別荘へ!go! 」
声に出して言うと、キャンディはわざと大股で歩き出した。
ジョルジュが教えてくれた通りに別荘の裏庭から屋敷に入ると、大おじさまのいるサンルームはすぐにわかった。
ポニーの丘の1日のように、大きな窓から太陽の光のシャワーが降り注ぐ、暖かみと幸福感のある部屋だ。
風が優しくふわりとレースのカーテンを揺らしている。
その広い部屋の窓ぎわに、心地よさそうな大きな椅子が、こちらに背をむけてぽつんとあるのにキャンディは気づいた。
『大おじさまがいる!』
キャンディは息を飲んだ。ほとんど見えないけれど、その大きな椅子に大おじさまが座っているのがわかった。
『ウィリアム大おじさま・・・
やっと・・・やっと・・・。』
目の奥がツンと熱くなる。
話さなければ。万感の思いを込めて、今、大おじさまに。
キャンディは大きく深呼吸をすると
「大おじさま、養女にしていただいたキャンディスです。突然来たことをお許しください。どうしても聞いていただきたいことがあるんです。」
緊張に震える声で、やっとそれだけを口にした。
大おじさまが黙ったまま、椅子の向こうで身動ぎする。
キャンディは続けた。
「大おじさま・・・わたし大おじさまがとてもすきです。どんなにお礼を言っても言い尽くせないくらい感謝しています。」
メキシコに売られそうになったところを養女にして助けてくれた大おじさま。どれだけ会いたいと願っただろう。
「でも・・・でもわたしとニールを婚約させるなんて一方的すぎます。ご恩は感じています。でも、こんなことでわたしの一生をかえたくないんです。」
キャンディは、大おじさまなら、キャンディの心を、そして、本当に思っていることを伝えても怒ったりしない、そう強く思っていた。
「わたし、大おじさまを尊敬していました。会ったこともないわたしを養女にむかえてくださったこと。。。だからもっと人の心を大切にしてくださる方だと思っていました。」
そこで、キャンディは、呼吸を整え、勇気を出して心の中を打ち明けた。
「わたしはニールが大きらいです。どんな罰を受けてもいいです。どうか・・どうか婚約をとりけしてください。」
「・・・・・・」
やはり、大おじさまからの返答はない。
キャンディは今さらだが、不安になって恐る恐る大おじさまに確認する。
「あ・・・あの・・・。大おじさま・・・?あなたは、大おじさまでしょ・・・?」
その瞬間___。
「話したいことはそれだけかい?キャンディ。」
春風のように優しく、海のように深く、子守唄のように懐かしい声がキャンディに届いた。
この声は___!!
キャンディの頭の中の記憶より、心が、、、感情が、、、先に反応する。
「アルバートさん!!」
そこにいたのは___。
目の前に立っているのは___。
アルバート大おじさま。
こんなことって。
キャンディの頬を温かな涙が伝う。幸せな、幸せな涙。
「すまない・・・今までだまっていて。」
アルバートが、少しだけ困ったように、そして、はにかんだように微笑んだ。
キャンディは夢の中にいるようで、話したいことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。
アルバートさんが・・・
ウィリアム大おじさまがキラキラした光の中でゆれている。
いつもいつも感謝して。
会える日を待ち望み、会ってお礼の言える日をずっと夢見ていた___。
その瞬間が___今。
「わたし・・・わたし、気がつきませんでした。おそばで過ごさせていただいたのに。」
キャンディはやっと口をきけるようになった。
「そんなあらたまった言い方はやめてくれよ。今まで僕にそんな言葉つかってたっけ?」
アルバートが苦笑いしながら、いつものような軽い調子で話しかけるとキャンディは真っ赤な顔になった。
「ニールのことは知らなかった。大丈夫。心配しなくていい。」
アルバートがキャンディを安心させるように力強く言うと、キャンディがヘナヘナと足元から床に崩れ落ちた。
「キャンディ!大丈夫か?」
驚いてアルバートがかけよる。
「きゅうに・・・きゅうに力が抜けちゃって。わたし・・アルバートさんが大おじさまだったなんて考えたこともなかった。どうして隠していたの?どうして話してくれなかったの?」
ちょっとすねるようにキャンディが甘く抗議する。わたしにだけは、言ってくれてもよかったのに!キャンディはそれがちょっぴり寂しい。
「ごめん。色々事情があったんだ。」
いたわるように優しく言って、アルバートはキャンディの緑色の瞳をまっすぐに見つめた。
そのアルバートの瞳を感じて、キャンディの中に想い出が押し寄せてくる。
家出をして滝から落ちた時、助けてくれたアルバートさんとのはじめての出会い。
アードレー家の養女にしてもらって、夢のような幸せな日々をもらった・・・
そして、アンソニーが亡くなった時、
キャンディ、運命はね、人からもらうものじゃないんだよ。強くなるんだ。
自分の運命は自分で探すんだ。
そう励ましてくれたアルバートさん。
テリィと別れた時も
ステアが死んだ時も
アルバートさんはかならずそばにいてくれて。
キャンディ。
ひとつの物をふたりでわけあうっていいことだよね。
これからもそうしないかい?キャンディの悩みや悲しみをふたつにわって僕にくれないか?
そう言っていつも私をあたたかく包みこんでくれるアルバートさん。
これからも、どんな時でも、それはきっとかわらずにそこにあるはず__。
キャンディは、その事実を宝物のように感じていた。
最愛のウィリアム大おじさまで、大好きなアルバートさん!
アルバートさんがいてくれる、これからもそばで見守っていてくれる、そう思うだけで、キャンディは幸せに包まれるのだった。
そして、そこには。
そんなキャンディを愛おしげに見つめるアルバートの優しい眼差しがあった。
次のお話は
↓
永遠のジュリエット vol.5〈キャンディキャンディ二次小説〉
テリュースは、1枚の絵画の前に立ちつくしていた。もう長いこと___。
それは。
レン...
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