二次小説

永遠のジュリエットvol.1 〈キャンディキャンディ二次小説〉

 

ニューヨーク行きの最終列車は、30分ほど遅れていた。

 

 

テリュースは、人影もまばらなロックスタウン駅のホームのベンチに座り、ゆっくりとタバコをふかしていた。傍らには、古い革のトランクがひとつ。

 

 

目先の金欲しさに、旅回りの劇団が興行していると耳にし、このロックスタウン駅に降り立ったのが1ヶ月前。

 

 

レストランの皿洗いでもかまわないと頭の隅で考えながらも、劇団を探してしまうのは、そういうことだったのかと今さらながら合点がいく。

 

 

ハムレットが、先王の幻によって真実を知らされたように、今日自分は、キャンディの幻に真実を教えられたのだとテリュースは思う。

俺の心の真実を_。

 

 

「しっかりして!テリィ!あなたはあなたの夢を忘れてしまったの?あなたの進むべき道を思い出して!」

 

 

キャンディの声が、どこか自分の深いところにこだましている。

悪夢から俺を呼び覚ます叫び。

 

 

「キャンディ。。。

お前は幻になってまで俺を救いにきてくれたのか。。。」

 

 

闇の中に浮かぶタバコの煙の向こうに、愛しい人の面影を見つけ出そうとでもするように一点を見つめるテリュースがいた。

 

 

そう。俺は演劇が好きなんだ_。悔しいけれど、どうしようもないくらいに。

 

 

だから俺は演劇から離れられない。

 

 

 

そして、その俺の夢は___。

 

 

 

乞食から一国の王まで演じられるブロードウェイ屈指の役者になること_。

見る者すべての心を動かし、その世界にいざなう。

 

 

それは、テリュース・グレアムが演じる誰かではなく、そこにその人物が存在し、その人物が自ら語っているのだと観客に錯覚させるほどの圧倒的な空気をまとった役者になること。

 

 

そうだろ!?テリュース。

 

 

俺はもう迷わないとキャンディの幻に誓う。

 

 

絶対に夢を叶えてみせる。再起してみせる。

 

 

昨日までの自分とは違い、キャンディがいない寂しさの中にも、強く熱い炎が息づいているのをテリュースは感じていた。

 

 

「失礼しちゃうわ、テリィ。ハムレットの前に現れたのは父親の亡霊よ。わたしを亡霊みたいに言わないで。」

 

 

そばかすだらけの愛しい顔が口を尖らせて抗議する。

 

 

その顔を思い出すだけで、テリュースの冷たく整った唇にかすかに微笑みが浮かんだ。

もう少しだけ_。

列車に乗ってしまったら、過去はもう振り返らない。

列車が到着するまで、あと少しだけキャンディを思い出させてくれ。

 

 

テリュースは、誰に言うでもなく許しをこうた。

 

 

キャンディ___。。。

 

 

いつか、俺がブロードウェイで名前をはせたなら。

彼女がどこにいてもその目に留まり、自分のことのように喜んでくれるだろう。

俺はその日を夢みて_。

 

 

 

しばらくして、線路のきしむ音がかすかに聞こえはじめ、遠くの闇にポツンと赤い光が見えたかと思うと、あっという間に列車がホームに近づいてきた。

 

 

トランクを持って立ち上がったテリュースの瞳には、学院をやめ、イギリスからアメリカに向かったあの日のように力強い光が灯っていた。

 

 

キャンディの幻が現れた劇場も、早春の夜風に漂う花の香りも、もうテリュースを惑わせない。

 

 

ただ。

 

 

ブロードウェイの王者となるために生きてみようとテリュースは思うのだった。

それが、キャンディと約束した道なのだから。

 

 

 

次のお話は

永遠のジュリエット vol.2〈キャンディキャンディ二次小説〉 早朝、少しやつれたテリュースが、それでも柔らかな微笑みをたたえながら、スザナの寝室の窓辺に立った時、彼女はまだ夢の続きをみているのだ...

 

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ABOUT ME
ジゼル
「永遠のジュリエット」は、あのロックスタウンから物語がはじまります。あの時運命が引き裂いたキャンディとテリィ。少女の頃、叶うなら読みたかった物語の続きを、登場人物の心に寄り添い、妄想の翼を広げて紡ぎたいと思っています。皆様へ感謝をこめて♡ ジゼル

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